瞬読書評『伝わる・揺さぶる!文章を書く』(山田ズーニー)

人に薦められる文章作法の本に、やっとめぐりあった。

山田ズーニー著『伝わる・揺さぶる!文章を書く』

プロローグで、高校生の作文の、改訂前と改訂後が紹介されている。

改訂前「私が切実に受け止めることと言ったら、自分の将来についてです。ひとまず私にとって今気がかりなのは、近い将来です。・・・」

改訂後「私にとって、今、切実なのは、PHSを持つことを親に許可してほしいということだ。そんなことが切実かと疑う人さえいるかもしれない。だが、理由がある。・・・」

この見違えるような改訂をしたのは、高校生本人。山田ズーニーさんのアドバイスを受けて、本人が考えて、改訂した。

この文章は、「問題としてあなたが切実に受け止めているのはどんなことですか。あなたの肚の中から発する言葉で述べなさい」という大学入試問題への解答として書かれたもの。著者は「ひとまず」「とりあえず」を600字の文章で連発した女子高校生に興味を持ち、わずか2時間の指導で、改訂後の文章を書くまでに本人を変えた。このミラクルな指導がどんなものかを具体的に知りたければ、『伝わる・揺さぶる!文章を書く』を買って読んでください。ここでは、エッセンスだけを紹介します。

このミラクルな指導のエッセンス、それは「自分で問いをつくって、自分にインタビューしてほしい」とアドバイスしたこと。え、それだけ? もちろん、これだけではありません。このひとことアドバイスにたどりつくまでの、著者の努力と熟慮、そのリアリティはここでは伝えきれません。ぜひ本を読んでください。

エッセンスは「問いを作り、自分で答えよう」という、文章作法のゴールデン・ルール。このように、エッセンスをひとことで表現すること、この「凝縮力」が良い文章を書くうえでとても重要なスキルです。そして、短い言葉にリアリティを与えるストーリー。このストーリーを「リアルに語る力」が、文章力のもうひとつの要。

続く第一章のレッスン1は、そもそも「いい文章」とは何か? という問いからスタート。これも文章作法の王道です。まず、問いを提示する。この「問いかけ力」がポイント。本書は、文章を書く際のポイントをよく抑えていて、すばらしい。

「いい文章」とは何か? この問いへの答えは、「機能する文章、結果を出す文章」。なっとくのいく答えですね。

第二章レッスン1のタイトルは、「論点とは何か?」。そして最初の文章で、「論点とは文章を貫く問いだ」、という答えがズバリと書かれています。バッターボックスに立ったとたんに、豪速球が目の前を通り過ぎて、ミットにズバッと収まった感じ。敵ながらあっぱれ。いや、敵じゃないんですけど。

次に、問いに答えるための7つの方法が列挙されています。

(1)自分の体験・見聞を洗い出す。

(2)必要な基礎知識を調べる。

(3)具体的事例を見る。

(4)別の立場から見る。

(5)海外と比較してみる。

(6)歴史を押さえる(背景)

(7)スペシャリストの視点を知る。

この7つは、ちょっと多すぎですね。どれもたしかに重要なポイントですが、私なら3つにまとめます。人間、すぐに理解できるのは3つまで、というのが私の経験則です。

(1)自分の体験・知識を洗い出す。

(2)調べまくる。

(3)自分とは反対の立場で考える。

このレッスンの最後に、「論拠をどう配列するか?」が書かれています。これも重要なポイント。著者のアドバイスは以下の5つ。

●優先順位の低いもの→高いものへ

●具体的な根拠→抽象度の高いものへ

●時間的配列(問題の背景→現在→将来)

●ミクロからマクロへ(個人の実感→社会問題→社会構造へ)

●賛否(賛成、反対の代表的意見の提示→両者の共通・差異点→そこから見える問題点)

ここでは書かれていませんが、空間的配列も大切。日本→世界、とか、アメリカ→ヨーロッパ→アフリカ→アジア、とか、北海道→本州→九州、など。当たり前のように思えるでしょうけど、物事を説明する順序に無頓着な文章って、結構多いんです。学生のレポートは、だいたい無茶苦茶です。他人に物事を説明するときには、順序に細心の注意を払うこと。物事を理解するって、面倒な作業なんです。説明するのはさらに面倒です。したがって、小学生に説明するつもりで、ひとつずつステップを踏んでいくことが大事です。

学生のレポートが無茶苦茶な理由は、教員に説明するという意識が低いからでしょう。教員は自分より知識が多いから、書けばわかってもらえる、と思っている。違うんです! と声を大にして言いたい。順不同で、飛躍した説明を読むのは苦痛です。それを、50枚も100枚も読むんだぜ。ちっとは教員の気持ちになって書いてくださいよ、と毎年、毎回言うけど、なかなか改善されないので、「レポートの書き方」を書こうと思っているわけです。

なお、『伝わる・揺さぶる!文章を書く』は、食事をとりながら「瞬読」しました。読むのにかけた時間は15分くらいでしょうか。長時間かけて良い本を書いてくださった著者には申し訳ないけど、私の時間がかなり限られているので、最近では多くの本を「瞬読」しています。そしてこのブログを早書きしています。

「速読」「瞬読」の技術にはいくつかありますが、得た知識をこのブログのようなアウトプットにまとめるのがひとつの有力な技術です。単に早く読むだけでは何も得るものはありません(これは、ほとんどの速読講座で教えてくれないポイント)。