『理科系の作文技術』の文章は読みにくい

 段落の最初には、トピック・センテンスを置き、段落の最初の一文だけを飛ばし読みすれば、論理が追えるように書くべし。これは、私が『理科系の作文技術』(木下是雄著、中公新書)から学んだ文章作法です。しかし、本書を38年ぶりに読み返してみて、驚きました。『理科系の作文技術』の段落の最初の一文だけを読むと、論理がうまく追えないのです。

 『理科系の作文技術』第4章のトピック・センテンスに関する説明から、段落の最初を抜き書きしてみます。

-トピック・センテンスは、前節の二つの例文にみられたように、パラグラフの最初に書くのがたてまえである。

‐ここに示したのは各パラグラフのトピック・センテンスである。

‐本節の冒頭にトピック・センテンスはパラグラフの最初に書くのがたてまえと書いたが、現実の文章はそうなっているとはかぎらない。

‐私は、こと仕事の文書に関するかぎり、重点先行主義にしたがってトピック・センテンスを最初に書くことを原則とすべきだと考える。

‐最後に述べたことは定説ではない。

最初の4つの文はすべて「トピック・センテンス」に関する主張の羅列であり、論理的に構成されているとは言えません。そして最後は、「これは定説ではない」(私の独自の主張です)という断り書きで結ばれています

 これら5つの文章は、ひとことで言えます。「仕事の文書では、トピック・センテンスを段落の最初に書くべきだ。」たったこれだけの主張をするために、3ページも費やす必要はありません。

 次に、『理科系の作文技術』第8章「わかりやすく簡潔な表現」の冒頭の「文は短く」から、段落の最初を抜き書きしてみます。

‐仕事の文章の文は、短く、短くと心がけて書くべきである。

‐私の考えでは、本質的な問題は文を頭から順々に読み下してそのまま理解できるかどうかであって、すらすらと文意が通じるように書けてさえいれば、長さにはこだわらなくていい。

‐5.2節で逆茂木型の長い文ー読み返さないと判らない文の一つの典型ーの実例をあげ、それを短く切って書き直してみた。

‐筆者の頭の中でたまりにたまってはけ口を求めていた考えが一気にほとばしり出るとき、とかくこういう文がうまれやすい。・・・このような冒頭文がさらに続きますが、これくらいあげれば、もうおわかりでしょう。

 「わかりやすく簡潔な表現」ではありません。「文は短く」ありません。

 「トピック・センテンスを段落の最初に書く」「わかりやすく簡潔な表現を工夫する」などの本書の主張は文章作法の基本ですが、本書の文章はこれらの基本原則に忠実ではないようです。

 そこで『理科系の作文技術2.0』を書いて、もっとわかりやすく、論理的に、理科系の作文技術を解説してみたい。その素材となる文章を、休憩時間に書きためてみようと思います。次回は、論理的に書くとはどういうことかについて、説明する予定です。

『理科系の作文技術』から、私は38年前に文章を書く上での大事な原則を学びました。その後38年間、文章を書く中で考え、学んだことを整理して一般化してみたいと思います。先人の偉業を批判して、より良いものを作るのは、後輩のつとめでしょう。木下先生にもご理解いただけるように書いてみたいと思います。