ワカンダフォーエバー

ブラックパンサー・ワカンダフォーエバーを昨日観た。第一作に続きこれは歴史に名を刻む傑作だ。第一作との大きな違いは女性が中心となる物語である点。さらに、母親の愛が復讐心を癒す力として描かれている。ボーズマンの惜しまれる死去を受けて、物語の中でも主役が交代するが、次代を担うのは女性。

ブラックパンサーが誰かはポスターを観れば明らかだったが、まさかアイアンハートまで女性だとは!リリという名を事前に知っていても想定外だった。そのリリをシュリが助けさらにラモンダ女王が助ける行為が物語を大きく動かす。利他的な行為が争いの火種となり、本来争う必要がない二つの民が争う。

敵役のネイモアは海の民なのに空も飛べる。アイアンハートもパワードスーツで空を飛び、戦闘シーンは圧巻。しかし愛する者を奪われた者どうしの争いなので、勝利に爽快感はない。ネイモアを倒したシュリが最後にとる行動は映画を観て。気高い王であった兄の後を継ぐシュリの成長は葛藤に満ちていた。

前作についで監督をつとめたライアン・クーグラーはまだ36歳。アレックス・ヘイリーの「ルーツ」がヒットしたときまだ生まれていなかった。「ルーツ」やそのリメイク版を観て育った世代が生んだブラックパンサーには、自分たちのルーツの誇り・抵抗の歴史を描いた作品をこえた新たな未来がある。

「ルーツ」の記事を検索し丸谷・木村・山崎対談を見つけた。国への自虐・エスニック意識・自然崇拝を「ルーツ」のヒット理由にあげている点、うなづける部分もあるがブラックパンサーを観てから読むと浅い考察に思われた。過去の過ちを認めそれをどう乗り越えるかが鍵だろう。

『ルーツ』アレックス・ヘイリー|丸谷才一+木村尚三郎+山崎正和の読書鼎談(1/3) - 木村 尚三郎による対談・鼎談 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

今回の作品ではマヤ文明の子孫が登場し、スペイン人による征服の過ちがストレートに描かれている。しかしその過ちを再び繰り返そうとする無益な争いが描かれ、争いの火種となる復讐心を乗り越えるための葛藤が描かれる。アフリカ系国家として最初に独立したハイチが舞台の一つなのは納得。

最後にティ・チャラ2世「トゥーサン」が登場するがこれはハイチ革命指導者の名前。検索したらすでに指摘している人がいた。争う必要のないワカンダとタロカンの争いを招いたのは、合衆国を含む先進国の覇権。次回作はこの難問にどう挑むのか。期待しかない。

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すっかり忘れていたけど、シュリ王女の声を演じた百田さんはすばらしかった。最初の声を聞いたときに一瞬百田さんの顔が浮かんだけど、すぐにシュリ王女に没入した。後悔・前進・苦悩・落胆・決意・葛藤・克服とめまぐるしく動く若いシュリの心情を見事に演じていたと思う。想像のはるか上だった。