「理科系の作文技術2.0」を書いてみたい

屋久島滞在中も、帰路も、「Decision Science for Future Earth」というタイトルの総説の英文原稿を書き続けています。この総説は、地球環境問題を含む人間社会の諸問題の解決において、人間の意思決定に関する自然科学・社会科学を統合した科学(Decision Science)がいかに有効かについて、多岐にわたる論文を引用して論証した力作です。決断科学大学院プログラムで、環境・災害・健康・統治・人間という5つのテーマの下で、さまざまな分野の若手研究者から学んだ知識をもとに、書き進めています。「決断科学のすすめ」に書いたアイデアを発展させて、先行研究をレビューしながら論理的な整理を進め、2年間かけて書き進めてきました。仕上げ段階のいまは、執筆チームの若手研究者と頻繁にミーティングを持ち、論理を整理しながら書き進めています。

このような総説を書くうえで決定的に重要になるのが、文章力です。もちろん、小説やエッセイを書く文章力ではなくて、論理的な文章を書く力です。自然科学の観察や実験結果をもとに論文を書くレベルよりもずっと高度な文章力が要求されます。40年をこえる研究者生活を通じて文章力の向上に努力してきた結果、ようやく「Decision Science for Future Earth」というような学際的なテーマについて、コンセプト論文と言われるような総説を書けるだけの文章力を身に着けました(まだまだ修行中ですが)。

文章の書き方に関する本をたくさん読みましたが、残念ながら参考になった本はほとんどありません。英文の論文や総説を読みながら、そして書きながら、試行錯誤で自分なりの作文スキルを磨いてきました。そうやって磨いたスキルをほかの人にも伝えられるように整理して、「理科系の作文技術2.0」という本を書く構想をしばらく前から練っています。

「理科系の作文技術」はおそらく、論理的な作文技術に関してもっとも広く読まれている本だと思います。しかし、私が論文や総説を書く経験の中で、この本が役立ったことはあまりありません。それは分野の違いのためかもしれません。もしそうであっても、私が試行錯誤で見出したスキルが役立つ分野は、きっとあることでしょう。

論理的な文章を書くという点では、理系・文系の区別は本来ないはずです。「理科系の作文技術」が広く読まれているので、「理科系の作文技術2.0」というタイトルをとりあえず考えていますが、タイトルは変えるかもしれません。

使える時間は限られているので、このブログで関連記事を書いて、私が使っているテクニックを少しずつ整理していこうと思います。

いま博多に向かう新幹線車中。「まもなく熊本に着きます」というアナウンスが流れたところです。上記の論文執筆を中断して、大学院生の原稿を読んで、作文技術をなんとか伝授したいという思いが強まり、この記事を書きました。

帰宅したら、三宅香帆さんの『バズる文章教室』が届いているはず。楽しみですが、たぶん「理科系の作文技術2.0」で書こうとしている内容とはほとんど重複しないでしょうね。