『バズる文章教室』書評その1:垂らされた釣り糸にひっかかった話

読んで楽しい文章には法則があるのだ、と著者はプロローグで宣言しています。この本は、著者が「面白いじゃん」と思った文章をとりあげて、なぜその文章が面白いのかについて考え、法則化した本です。

「バズるつかみ」「バズる文体」「バズる組み立て」「バズる言葉選び」の4章構成。それぞれの章に、「読んで楽しい」文章が例示され、その文章の特徴が解説されています。いわば、「文章ミュージアム」の展示解説ですね。展示されている文章は、ぜんぶで49あります。

それぞれの例文を特徴づける「法則」には、「良心的釣りモデル」「未解決疑問モデル」のように簡潔なネームがついてます。さらにこのネームを面白く言い換えた短いタイトルがついています。「良心的釣りモデル」には「しいたけの誘引力」、「未解決疑問モデル」には「星野源の未熟力」・・・。「〇〇力」とついたタイトルが49個並んでいるのは壮観で、タイトルを見ただけで、読みたくなります。この言葉選びのセンス、それが本書の魅力のひとつです。でも、あくまでもひとつ。

「垂らされた釣り糸には、うっかり、ひっかかっちゃうもの」・・・最初のメニュー「しいたけの誘引力」の書き出しです。まさに「バズるつかみ」。座布団10枚!

そのあとで、「しいたけ」という謎の言葉の意味が解説されます。なんだ、食べ物のしいたけじゃなかったのか。

「こんなふうに、先にあえて“刺激的かつ意味不明な言葉”を放り込み、後から『実はこういうこと』とやさしく説明する流れを作ることで、読み手をするっと巻き込むことができます。」

はい、すっかり巻き込まれました。

この「良心的釣りモデル」の解説は、例文抜きでも成立しています。展示抜きで、解説だけで楽しめる。では、例文はどうかというと、意外にもあっさりとした、淡々とした書き出し。

「お盆休みに広島県の福山の神石高原(じんせきこうげん)ホテルというところで名越康文先生の合宿に参加してきました」

この例文には、著者のメッセージが隠されているように思います。「バズるつかみ」は、書き出しの一文に放り込まなくても良いんです。4番目の「嵐の前モデル-村田喜代子の展開力」にも通じることですが、日常の描写からはじめて、そのあとでパワーワードを放り込んでも良い。私はこの展開が好きですね。「運命」みたいに、最初から「じゃじゃじゃじゃーーん」と大音響で迫るのは心を鷲づかみにする強力な方法ですが、逆にそのあとの「緩」がむつかしい。

『バズる文章教室』発売記念の「書き出しだけ大賞」に私も応募してみましたが、最初の一文だけで読者にアピールするのは、苦手だと感じました。それでも良いんだよ、と最初の例文で納得できたので、すっかり安堵して本書を読んでいます。つ・づ・く。