『バズる文章教室』書評その2 多様性って要約できないんですよ

文体って、こんなにも多様なんだ!

「バズるつかみ」の7例に続いて、「バズる文体」には、なんと16もの文例が紹介されています。ダンスを踊るように書く(村上春樹の音感力)、ドリーインしたりズームインしたりして撮影するように書く(司馬遼太郎の撮影力)、やさしく語りかけるように書く(上橋菜穂子の親身力)、行間に思いを込めて感情を見せずに書く(井上都の冷静力)・・・。

話し方に個性があるように、文体にも多様性があるんです。本書はその多様性を展示した『文体ミュージアム』。

続く「バズる組み立て」は15例。冒頭で犯人を明かす「古畑任三郎方式」(さくらももこの配慮力)、それとは逆に、オチでひっくり返す(秋元康の裏切り力)、あえて、みなまで言わない(江戸小噺の小粋力)・・・。

確かに、文章の組み立て方にも、いろんな工夫がありますね。AKBの歌詞から落語まで、題材も多様で、楽しい。

最後の「バズる言葉選び」は11例。最後の一文で、良い読後感を残す(岡本かの子の言い残し力)、子供の気持ちで言い換える(ビジネス書の隠喩力)、名言を読み手の経験におとしこむ(ローリングの超訳力)、カタカナをつかいこなす、たとえば、「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの(俵万智の合図力)・・・。

三宅さんの文章を最初に読んだ時、俵万智さんの『サラダ記念日』をなぜか思い出したのですが、やはり本書に登場しましたね。

書評の常道にならって、本書の内容を紹介してみましたが、多様性って、要約できないんですよ。それぞれに個性があるから。生物の多様性が要約できないように、人間の個性も、みんながみんなユニークなんです。

「誰もがみんな、その人らしい言葉を使えばいい」

三宅さんは、あとがきでははっきりとこう書いています。

本書は、テクニックを駆使して多くの拡散をねらうための教室ではなく、私たちひとりひとりの思いや発見を楽しく伝える方法についての教室です。

三宅さんの表現を借りれば、文章とは「自分ひとり」と、「誰かひとり」をつなげる作業です。その作業の楽しさを伝えたい、という文芸オタクの一途な思いを受け止めながら、『文体ミュージアム』を後にしました。

『バズる文章教室』書評その1:垂らされた釣り糸にひっかかった話

読んで楽しい文章には法則があるのだ、と著者はプロローグで宣言しています。この本は、著者が「面白いじゃん」と思った文章をとりあげて、なぜその文章が面白いのかについて考え、法則化した本です。

「バズるつかみ」「バズる文体」「バズる組み立て」「バズる言葉選び」の4章構成。それぞれの章に、「読んで楽しい」文章が例示され、その文章の特徴が解説されています。いわば、「文章ミュージアム」の展示解説ですね。展示されている文章は、ぜんぶで49あります。

それぞれの例文を特徴づける「法則」には、「良心的釣りモデル」「未解決疑問モデル」のように簡潔なネームがついてます。さらにこのネームを面白く言い換えた短いタイトルがついています。「良心的釣りモデル」には「しいたけの誘引力」、「未解決疑問モデル」には「星野源の未熟力」・・・。「〇〇力」とついたタイトルが49個並んでいるのは壮観で、タイトルを見ただけで、読みたくなります。この言葉選びのセンス、それが本書の魅力のひとつです。でも、あくまでもひとつ。

「垂らされた釣り糸には、うっかり、ひっかかっちゃうもの」・・・最初のメニュー「しいたけの誘引力」の書き出しです。まさに「バズるつかみ」。座布団10枚!

そのあとで、「しいたけ」という謎の言葉の意味が解説されます。なんだ、食べ物のしいたけじゃなかったのか。

「こんなふうに、先にあえて“刺激的かつ意味不明な言葉”を放り込み、後から『実はこういうこと』とやさしく説明する流れを作ることで、読み手をするっと巻き込むことができます。」

はい、すっかり巻き込まれました。

この「良心的釣りモデル」の解説は、例文抜きでも成立しています。展示抜きで、解説だけで楽しめる。では、例文はどうかというと、意外にもあっさりとした、淡々とした書き出し。

「お盆休みに広島県の福山の神石高原(じんせきこうげん)ホテルというところで名越康文先生の合宿に参加してきました」

この例文には、著者のメッセージが隠されているように思います。「バズるつかみ」は、書き出しの一文に放り込まなくても良いんです。4番目の「嵐の前モデル-村田喜代子の展開力」にも通じることですが、日常の描写からはじめて、そのあとでパワーワードを放り込んでも良い。私はこの展開が好きですね。「運命」みたいに、最初から「じゃじゃじゃじゃーーん」と大音響で迫るのは心を鷲づかみにする強力な方法ですが、逆にそのあとの「緩」がむつかしい。

『バズる文章教室』発売記念の「書き出しだけ大賞」に私も応募してみましたが、最初の一文だけで読者にアピールするのは、苦手だと感じました。それでも良いんだよ、と最初の例文で納得できたので、すっかり安堵して本書を読んでいます。つ・づ・く。

『バズる文章教室』のぐうの音も出ない一言

「上から目線の文章は、読み手に絶対バレちゃうから。」

たしかに。たしかにおっしゃる通りです。わかっているつもりで、そうならないように努力していたつもりで、努力が足りませんでした。ごめん。

「昨今の地球温暖化に関する議論は・・・(注:これ、私がよく書くやつ)と書き出すより、「最近の天気って変だと思いませんか?」って書きだしたほうが、読む気になりますよね。」

ぐぐ・・。

「大切にしてほしいのが、『読み手にはわかりにくい話題だろうから』ではなく、「読み手にとって遠い話題だろうから」という丁寧なスタンス」

ぐぐぐ・・・。

「だからそれを『近く』に持っていってあげる、やさしさがほしい。」

・・・・・・・。

『決断科学のすすめ』を担当してくださった編集者の遠い目が思い出されて、つらい。

『決断科学のすすめ』を書いたときは、書く私のほうがアップアップで、内容を『近く』に持っていく余裕があまりなかったと反省しきり。

昼休みに『文体の品評会』と書いてしまいましたが、これもいささかならず、上から目線だったかも。『文体ミュージアムの展示案内』かな。三宅さんほど表現力ないので、これでご容赦を。

『バズる文章教室』ーまだ読んでる途中ですが、自分の文体をみなおす良いきっかけになりました。科学者なので、「最近の天気って変だと思いませんか?」って書くよりは、「最近、大きな水害が続いています」とファクトから書き始めたい派ですが、読み手をリスペクトするという姿勢はとても大事です。

『バズる文章教室』は、読み手・書き手へのリスペクトにあふれた本です。

『バズる文章教室』ゲット

とりあげられている文章のメニューはきっと48だと予想して数えてみたら、何度数えても49あります。AKBファンを公言している三宅さんの本だから、きっと48あると思っていたら、予想を裏切られました。でも一つ違いだから、きっと48を意識していましたよね。

どうして49なのか、その理由について、3つの仮説を思いつきました。

(1)手あかにまみれた48という数字への、ささやかな抵抗。

(2)実はSexy Zone佐藤勝利のファンでもある。

(3)うっかり49書いて、どれも削るのが惜しくて、全部採用した。

てな感じで、自分らしく、楽しく、文章を書きましょう、というのがこの本のメッセージ。

この本は、一言で言えば、文体品評会。文体は、書く人ひとりひとりで、こんなにも違うんだ、ということがよくわかる本です。そして、それぞれの文体についての著者の観察が面白い。その面白さの内容については、つ・づ・く。昼休みが終わりました。

「理科系の作文技術2.0」を書いてみたい

屋久島滞在中も、帰路も、「Decision Science for Future Earth」というタイトルの総説の英文原稿を書き続けています。この総説は、地球環境問題を含む人間社会の諸問題の解決において、人間の意思決定に関する自然科学・社会科学を統合した科学(Decision Science)がいかに有効かについて、多岐にわたる論文を引用して論証した力作です。決断科学大学院プログラムで、環境・災害・健康・統治・人間という5つのテーマの下で、さまざまな分野の若手研究者から学んだ知識をもとに、書き進めています。「決断科学のすすめ」に書いたアイデアを発展させて、先行研究をレビューしながら論理的な整理を進め、2年間かけて書き進めてきました。仕上げ段階のいまは、執筆チームの若手研究者と頻繁にミーティングを持ち、論理を整理しながら書き進めています。

このような総説を書くうえで決定的に重要になるのが、文章力です。もちろん、小説やエッセイを書く文章力ではなくて、論理的な文章を書く力です。自然科学の観察や実験結果をもとに論文を書くレベルよりもずっと高度な文章力が要求されます。40年をこえる研究者生活を通じて文章力の向上に努力してきた結果、ようやく「Decision Science for Future Earth」というような学際的なテーマについて、コンセプト論文と言われるような総説を書けるだけの文章力を身に着けました(まだまだ修行中ですが)。

文章の書き方に関する本をたくさん読みましたが、残念ながら参考になった本はほとんどありません。英文の論文や総説を読みながら、そして書きながら、試行錯誤で自分なりの作文スキルを磨いてきました。そうやって磨いたスキルをほかの人にも伝えられるように整理して、「理科系の作文技術2.0」という本を書く構想をしばらく前から練っています。

「理科系の作文技術」はおそらく、論理的な作文技術に関してもっとも広く読まれている本だと思います。しかし、私が論文や総説を書く経験の中で、この本が役立ったことはあまりありません。それは分野の違いのためかもしれません。もしそうであっても、私が試行錯誤で見出したスキルが役立つ分野は、きっとあることでしょう。

論理的な文章を書くという点では、理系・文系の区別は本来ないはずです。「理科系の作文技術」が広く読まれているので、「理科系の作文技術2.0」というタイトルをとりあえず考えていますが、タイトルは変えるかもしれません。

使える時間は限られているので、このブログで関連記事を書いて、私が使っているテクニックを少しずつ整理していこうと思います。

いま博多に向かう新幹線車中。「まもなく熊本に着きます」というアナウンスが流れたところです。上記の論文執筆を中断して、大学院生の原稿を読んで、作文技術をなんとか伝授したいという思いが強まり、この記事を書きました。

帰宅したら、三宅香帆さんの『バズる文章教室』が届いているはず。楽しみですが、たぶん「理科系の作文技術2.0」で書こうとしている内容とはほとんど重複しないでしょうね。

「花はなぜ美しいか」という文章の書き出しを考えてみた

ヤマザクラ、フジ、アジサイネムノキ・・・。四季を通じて、色とりどりの花が咲き続ける。この花のリレーの舞台裏で、花と昆虫の密かなバトルが繰り広げられていることを、多くの人は知らない。

三宅香帆さんの新刊『バズる文章教室』の販促企画として、「書き出しだけ大賞」という面白い企画をやっているので、私も3題ほど考えて参戦してみました。やってみてすぐに、最初の一文だけで読者の目をキャッチする文章を、私はあまり書いていないことに気づきました。

私は小説家でもエッセイストでもなく、ファクトで語りたい科学者なので、一文だけでは伝えたいことが伝えきれないんです。導入には、どうしても文章3つはほしい。冒頭の3つの文章は、その一例として書いてみました。キャッチーさは足りないかもしれないけど、花に関心がある読者には、読んでみようと思ってもらえる書んじゃないかな。

三宅香帆さんの新刊『バズる文章教室』が書かれる発端になったのは、

大学院生がアイドルから学んだ「読んでて楽しい文章」を書くためのセブンルール

https://m3myk.hatenablog.com/entry/2018/05/22/222515

という記事のようです。

このセブンルールにのっとって、私の文章を自己評価してみますね。

①書き手の表情がわかりやすいこと

 たぶん、わかりやすいと思いますよ。ただし、まじめな表情をしていることが多い。ときどき、熱弁をふるう。たまに、ゲゲゲ、とか言います。

②読み手をひとり決めること

 読者はつねに意識していますが、結果として読者層が絞られることも多いですね。

③カメラに抜かれそうなキャッチーな言葉を入れること

 控えめです。予算をとるために「決断科学」なんていう言葉を考え出した前科がありますが、基本は控えめ。自然ネタの場合、内容の意外性を軸にしてストーリーを作ることが多いので、カメラに抜かれる勝負どころは、内容の意外性。「花と昆虫の密かなバトル」程度のレトリックは工夫します。

④ありきたりな言葉で隠してないか確認すること

 いつも私にしか書けないことを書くように意識してます。科学者はオリジナリティ命。

⑤できるだけ短く書くこと

 意識してますが、長くても読んでくれる読者を想定して書くことがしばしば。

⑥自分が書いてて楽しいと思えるものを書くこと

 読者に楽しんでほしいときにはもちろんそうしますが、職業柄、批判的なことを書かざるを得ないときもある。そのときは建設的であることを肝に銘じます。

⑦愛があること♡

愛にあふれてます。植物とか、科学への愛ですが。(ももクロ愛があるという説も)

というわけで、結局、自分の流儀で書いていく以外に、道はなさそうです。

センスメイキングを明識化と訳そう

週末2日かけて、"Decision Science for Future Earth"という2年がかりで書いている論文の新しいパートを書こうとしましたが、頭の中のもやもやが晴れず、文章化はほとんど進まないままに終わってしまいました。Future Earthプロジェクトの最終報告書を月末に提出する必要があり、もう待ったなし、危急存亡、絶体絶命の事態を迎えていますが、書けないものは書けないよ。風呂に入ってリラックスしようとしても、「書かなくちゃ」という意識ばかりが先走って、すぐに風呂からあがろうと体が動いてしまう。瞑想しても、意識を抑え込めません。

こういう時に、頭を休める手段があるかどうかは、大事ですね。昨夜は、東京キネマ倶楽部開催『「MOMOIRO CLOVER Z」 SHOW』ストリーミング特別配信を観てから、さっさと寝ました。今朝起きてから、もやもやが少し晴れて、文章が動き始めました。今日はかなり先に進めそうです。

最近、センスメイキング、という言葉を知りました。Wikipediaにすでに解説があります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0

しかし、読んでも何やら意味がよくわかりませんね。It does not make sense!

「センスメイキング」は、もやもやが晴れる、何が問題かがはっきりつかめる、何を書くべきかが明確になる、そんな感じをうまくあらわす表現だと思います。

和訳をいろいろ考えた結果、「明識化」という表現を思いつきました。

さあ、これから「明識化」した内容をさっさと文章化します。